他人の靴は気持ち悪い
他人の履いた靴を履くということは、なんとも言えない気持ち悪さがあるものだ。
と徒然草に出てきそうなフレーズに関するエピソード。
7〜8年くらい前のこと。
客先の新しいプロジェクトに参加。意気揚々と始めたはいいものの大規模なプロジェクトゆえ当然ながらなかなかうまく進まない。それでも当時のメンバーは「俺たちは新しい何かをやっている」という、よく分からない高揚感に包まれていた。
おかげでその年の忘年会は、常務も駆けつけてくれたこともあり、大いに盛りあがった。
常務が来るということは、二次会は常務行きつけのいつものスナックでカラオケ、というのが慣例で、我々ペーペーは会計を済まして後片付けをして、二次会に遅れて参加する、というのもまたいつものパターンだった。
その日もそんな感じで一次会の店を出ようとしたら
「あれ、靴がない…」
楽しかったテンションがタダ下がり。
一次会はお座敷だったので、誰がが取り違えたのだろう。なんということだ。
一応探し回ってはみたものの、見つからない。狼狽する私に同僚から、とにかく行こう、常務が待ってるから、と声がかかる。
確かにこんな酔った状態で探し回っても手がかりが出てくるとは思えない。それに役員を待たせるなどもってのほかだし、運良く二次会で履いた奴が見つかるかもしれない。
ということで、その場にぽつんと1足だけ残された、誰かの靴を履いた。
サイズが大きい。なんか固い。底がでこぼこして変な感じ。
落胆しながら二次会のスナックへ。
スナックでは、出来上がった常務が穏和な表情で座れ座れ〜 と促していた。
だがもう次の瞬間、私の視線は常務の足元に向いていた。
それ、俺の靴では…
昔トリビアの泉?か何かで、天皇陛下とお食事する場合(そんな場合あんのか)、陛下に醤油を取ってもらいたい時はどうお願いすれば良いか、というやり取りがあった。
正解は、「陛下、醤油…」だそうだ。
天皇陛下くらい偉い人になると、お願いすることすら失礼になるので、気づきを促すようにするのが良いという。
酔った頭でそんな事を思い出した。よし、その作戦でいこう。
私「常務、靴…」
常務「ごめん」
かくして私の靴はその日のうちに戻ってきた。
以後、私は常務に靴を取り違えられた男として少しだけ有名になったりした。
体型も足のサイズも違うのにね。
酔うと靴のサイズすら気にならなくなる人もいるんだ、ということを学んだ30代の思い出。